どうしようもない片田舎を走る一台のバス。
バスには、運転手と乗客が一人。
この道も普段は乗客がいない寂しい道だが、今日は珍しく乗客がいる。
ちょうど良い話し相手に、運転手は気さくに声をかけた。
ミラー越しに、乗客の男と目が合う。
男は、運転手の見立て通りのスーツ姿だった。
いきなり話しかけられて驚いたのか、はたまた世辞に気を悪くしたのか、しばらく返事はなかった。
二つ先の停留所は教会だったが、結婚式ができるような所ではなかった。
冗談のつもりだったのだが、結婚式というのはまずかった。そう思っていると、
どうやら怒ってはいないようだった。
それに気をよくした運転手も言葉を返す。
それを聞いて、男は僅かに口元をゆるめた。
「ああ。親が言うのも難だが、綺麗な子だ」その言葉を聞いたとたん、一転して男の表情が険しくなる。
反応に訝しみながらも、空気を変えるために話し続けた。
そう言った男の表情は、依然険しいままだ。
「娘さんの誕生日でしょう。もっと笑顔でいきましょう」重苦しい空気に、自然と運転手の声色も低くなる。
「もう……5年になる。娘には酷いことをしてしまった」部外者が深く関わるべきではないとわかりながらも、一言だけ口を挟んだ。
「でも、心の底では、もっと会いたいと思ってるかも知れませんよ」運転手の言葉に、男は僅かに嘲笑しただけだった。
しばらくして、停留所である人気のない公園前に停車するバス。
男が降りる気配は一向にない。
ミラー越しに映る顔は、先ほどの嘲笑のままだった。
これには運転手も不気味に思い、恐る恐る、男の行き先を尋ねることにした。
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