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私の周りには不幸なことが起こる。
そんな時は決まって、どこからともなく黒くて大きな猫が現れるのだ。

猫を見つけたら気をつければいいと考えるかも知れないが、結論から言えば無駄だった。
気付いたときには、猫の眼が不幸を捉えているのだ。
まるで、猫が不幸を与えているように。

私はいつも独りでいた。独りでいるように務めた。
家でも、学校でも。
勉強ばかりしていたら、見る見るうちに成績が上がった。
しかし、これは誤算だった。
私を利用しようとする人が出てきたのだ。

 「あ、すごい! 昨日の宿題やってきたんだぁ。私、全然解らなかったの。ちょっと教えてくれないかなぁ?」

私は無視していたのだが、なぜか妙に馴れ馴れしくなっていって、
いつしか勝手に宿題を写し始めるまでになった。
馬鹿な女。
そこから先はすぐだった。

私の周りには不幸なことが起こる。

彼女がいなくなった後、やっといつもの日常に戻れると思った。
ところが、今度は男が声を掛けてきた。
まったく、勘弁して欲しい。
私が悲しんでると思ったみたいだが、自分の心配をすればいいのに。

警察の事情聴取は、比較的すぐに終わった。
当たり前のことだ。
ただ、今度はもっと悲しげな表情を出せるように練習しなくてはいけない。
ともかく、私は無事、警察から解放された。
何の問題もなく、家に帰れるのだ。

帰り道、あの大きな猫が現れた。
またか。また不幸なことが起こるのだ。

猫の視線の先には、猛スピードで走ってくる車。
驚いた。
一瞬の出来事だった。
大きな鉄の箱に突き飛ばされ、猫は道端に転がっていった。
動かない猫。
夕陽よりも紅く染まっていく。


私の周りには不幸なことが起こる。


本当にそうなのだろうか。
本当は、私が――

――その時、私は確かに見た。


夕暮れ、仄暮れ、黄昏の
紅く染まった道端で
悪魔は産声を上げた。

母猫の死肉を食い破って――



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