トップ > テキスト > ネズミのチュウ


ある古い家の、まっくらな天井裏に、「チュウ」という名前のネズミが棲んでいました。
チュウの家族は、母親ネズミと、兄ネズミの「チャ」と、弟ネズミの「チョ」の4匹家族でした。
次男坊のチュウは、この家族がどうも気に入りません。
父親ネズミがいないのをいいことに、兄ネズミのチャが幅をきかせているし、
母親ネズミは、弟ネズミのチョの事ばかり可愛がります。
この前だって、おいチュウ坊や、日刊ネズミ新聞を取ってこないかね、なんて気取ったようにチャが指図してきたし、
新聞ってものがどういうものかわからないのかな、なんていうからチョにまで笑われる始末でした。
母親ネズミは、晩ご飯の時間に間に合わなかったからと、トウモロコシを一粒しかくれませんでした。
このトウモロコシはチャが働いて貰った物なんだから、遊んでばかりいるお前の分は、これで十分だろう、というのです。
遊んでばかりいるとは、ずいぶんと酷い言い様だ、とチュウは憤慨しました。


僕が本当は辛い思いをしているなんて、誰もわからないんだ。
家にいても、母親ネズミはチョのことで手一杯だからと構ってくれないし、
台所では、チャがせっせと運送の仕事をしているので邪魔をしてはいけないと近づかないようにしているんだ。
それでしかたなく、おもしろくもないタンスの引き出しの中で、頭の固いネズミ取りの話し相手をしていたらどうだい、この仕打ちだ。
これは酒でも飲まないとやってられないってもんだ。
酒を飲んだことはないけども、ネズミ取りが云うには、天上の味がするらしい。
いや、天上だったか天井だったか……ともかく、こういうときは飲むものだ。


よし来たと、チュウは意気揚々と酒を飲もうとして、自分が酒の在処を知らないことに気付きました。
何かわからないことがあると、チュウは決まってタンスの引き出しの中に棲んでいるネズミ取りに聞きに行きます。
チュウにはネズミ取りしか、ちゃんとした話し相手がいなかったのです。
なんだか惨めな気持ちでいっぱいになりました。

天井の穴を通って、梁を伝い、タンスの引き出しをよじ登って、やっとネズミ取りの所までやってきた。
そこで背後に気配を感じ振り返った。
そこにいたのは首の無いネズミ取りだった。

 「ああ、あんただったのか……」

つづく

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