あいまいな中央分離帯

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テレビを観ていたら、引き籠もりには3つのタイプがあると言っていた。
アニメ、パソコン、フィギュアの3つだそうだ。
そんなばかな、私は生粋の引き籠もりだ。引き籠もりマイスターだ。
それなのに、その3つには当てはまらないではないか。
全く、テレビはいい加減なのだ。
惑わされてはいけない、人類は電波に毒されすぎている。

おっと、腹の虫が鳴ったので、そろそろ昼ご飯の時間だ。
郁子さん、ご飯はまだですか? あ、おいしそうなシャケ弁当ですね。
え、嫌じゃないですよ、ありがとうございます、いただきます。

郁子さんを簡単に紹介するとしたら、霊長類人科人属・ホモサピエンスのメスだ。
40代後半のベテラン主婦だが、最近は掃除もしていないし料理も手抜きが目立つ。
この前も、昨日の残飯が全てを占める食事に抗議したのだが、働かざる者食うべからずといって一蹴された。
私には人権が無いのだそうだ。
働く? むりむり。
そもそも、働けるんだったら言われなくたって働いてるっていうんだ、全く何を考えているんだか……。
何もわかっていない、わかろうともしていないくせに、いつも私が悪者だ。
これだから日本は少しも良くならないんだ。日本が良くならないから引き籠もりがいるんだ。

少し落ち着こう。
私はタオルがあると落ち着くのだ。
タオルを掛ければいいというわけではなくて、足の裏に触れているのが好きなのだ。
ふう、落ち着いた。
しかし、この弁当屋のシャケはしょっぱいな。

食事が終わったところで、郁子さんが弁当の容器を取りに来る。
シャケ、おいしかったです。ええ、良い塩加減でした。あれ、郁子さん少し痩せました? いやいや痩せて見えますよ、ええ。
晩ご飯のレシピから調味料のサジ加減まで、文字通りに郁子さんのサジ加減で決まる。私は必死だ。
なぜなら食事は、数すくない私の楽しみだからだ。
私は腰が低いのだ。これも文字通りだ。

はあ、なんだか今日は疲れた。
私は少し眠るとしよう。
お気に入りのタオルの上で丸くなる。
至福だ。
猫に生まれて本当に良かった。

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