ウィィーン。

 「哲人仮面白虎26号はどこだ」
 「やかましい!」

グリッ、ゲシッ、ドカッ、ズボッ。

 「ああ、でちゃぅ、中身がでちゃうよぉ! それに最後イヤな音がしたよぉ!」」

レジに置いてあった本を手にとって、公園へと走る。
しかし、なんの本なんだろうな。
ちょっと中身、見ちゃおうか。
パラパラと流し読みをすると、どうも家電のカタログのように思えた。
その時、一枚の写真に目がとまる。

 「これ、あの子が着けてたやつだ」

いや、少し形が違うかな?
なになに……えーけーじーっていうのか。

 「うわ、高いんだな」

とても俺が買えるような値段じゃないぞ。
こんな高いの、あの子は買ったんだろうか。
ふむ、他にも色々あるのか。
あ、これ安いな。
そういえばこんな感じの物が、俺の部屋にあったような気がする。

上京してしばらく、部屋を占拠するダンボールとの膠着状態も限界を迎え、
俺は重い腰を上げる英断をし、ついに融和政策をとることなった。
ダンボールを開けてみると、身に覚えのない物が多数混入されていた。
おそらく息子を気遣って、母がいろいろと気を利かせたんだろう。
しかし、その判断基準が理解不能だった。
身近な雑貨に始まり、警棒、防犯ブザー等の安全グッズや、
コンパス、薬草、徳川埋蔵金地図(これで君も億万長者)、全国共通肩たたき券(2回分)等の理解不能なもの、
さらにはエロ本(艶熟孕み妻 発情はめごろし厳選版)
エロDVD(猥褻親子の禁じられた痴獄 〜息子に犯される〜 愛蔵版)まで入っていた。

 「犯すかぁ!!」
 「きゃあ!」
 「あ、ご、ごめんっ! 今のは関係ないから」

思わず取り乱してしまった。
しかし、気付かないうちに公園まで来ていたようだ。
我ながら凄いな。

 「あの、ありがとうございますっ。わざわざ持ってきてくださって」
 「あ、そうだった。えっと、260円です」

公園の真ん中で会計を済ませる。
すると、お互いやることが無くなって、ただ立ちつくしていた。
端から見れば不思議な光景だろう。
なんだか恥ずかしくなって、話しかけてみることにした。

 「こういうの好きなの?」
 「は、はい。」

彼女も恥ずかしそうだが、イヤではないみたいだ。

 「実はさ、俺も持ってるよ」
 「ヘッドホンですか?」

急に、彼女の顔が明るくなる。
うまく、彼女の心を掴んだようだ。

 「まあ、これみたいに豪華じゃなくて、安っぽくてコードは付いてなかったけどね」
 「……え、あの」
 「ん? どうしたの?」
 「もしかして、ですけど……それって、耳当てじゃないですか?」
 「……え?」

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